季節(とき)の記憶 香りの美
―ウェルネス香道と「知性と感性」をつなぐ空間 ―
私の生命源――よひら(紫陽花)が、雨露に濡れて色香を放つ季節となりました。
皆さまの地域では、どのような彩(いろどり)と香りが感じられるでしょうか。
季節のうつろいとともに、香りが運んでくるものは、言葉ではなく「学び」かもしれません。
季節(とき)の記憶 香りの美――
心とからだ、そして感性にやさしく語りかける“香りのことば…
今回もまた、香りを通じて心に触れた小さな“学び”を、綴らせていただきます。
香道は、単なる芸道ではなく、目に見えぬ香の力を通じて、人と人、心と身体、過去と現在を結ぶ「空間」であり、対話の場です。
とりわけウェルネス香道は、現代社会におけるストレスや孤立感にそっと寄り添い、香りの知性と感性が調和する時間を提供します。
第一章 香りは、知性と感性の橋を架ける
― 香道と「脳の多様性」をめぐって ―
香道において香りは、単なる嗜好や記憶の喚起にとどまらず、五感と深層心理をつなぐ「知性の感覚」として現れます。
それは、論理と感性が交差する場であり、人それぞれ異なる脳の傾向にも柔らかく寄り添うものです。
古来、香道は「香りを聞く」と表現されてきました。それは、香りをただ嗅ぐのではなく、内面に静かに“聞き取る”という繊細な姿勢を示しています。この行為には、知的な集中と感覚的な受容、そして心身の調和が求められます。
現代の脳科学においては、人の脳には情報処理の傾向や感受性の違いがあることが示され、「男性脳・女性脳」あるいは「右脳・左脳的思考」といった多様性が語られるようになりました。けれども、そうした分類を超えて、香道がもたらす静かな体験は、論理思考に偏った脳にも、感性に寄った脳にも、それぞれの仕方で響き合い、癒しや気づきをもたらしてくれます。
香りには、誰かの感じ方を否定しない寛容さがあります。それは言葉にしなくても、互いの違いを受け入れ合える空間をつくる「香の場」の力に他なりません。
実際、みっちゃん亭ではこんな出来事がありました。いつも通ってくださっているお教室生が、ライアーチャリティーコンサート参加のため欠席された日。残った皆で、その方を想いながら、匂い袋を一つ一つ丁寧に仕立てました。「来られなくても、香りでつながれるね」――そう語る皆さんの表情には、言葉以上の共感とやさしさがにじんでいました。香りを通じた“寄り添い”が、自然なかたちで生まれた瞬間でした。
終わりに
香道における香りとは、単なる嗜好や懐かしさではなく、知性と感性の橋を架けるもの。五感と深層心理、論理と直感のはざまで、香りは私たちの内的世界にそっと語りかけ、脳の多様性に寄り添います。それは、誰もが自らの“香りの感受性”に目覚めていくための第一歩となるのです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
なお、すでにご案内しておりますように、5月31日、東京国立博物館 九条館にて開催される《香道蘭乃園 香延》では、「季節(とき)の記憶 香りの美」をテーマに、香りを通じて心と記憶をたどるひとときを皆さまと分かち合えれば幸いです。
次回は、「座右の銘:今、纂所の十士志を綱ぐなるべし。十士と時同じく交わりを結ぶ。『其則心如金』、先輩後輩其揆一也。其所を同じうし千歳の因なるべし。」をめぐる香道的解釈とともに、九条館での体験や学びについてご紹介いたします。
このように、香道は現代においても人々の心に寄り添い、知性と感性をつなぐ架け橋としての役割を果たしています。ウェルネス香道・薬膳営養学研究会では、香りの文化を未来へとつなぐ活動を続けております。
カテゴリー:新着情報
投稿日:2025年05月23日