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第二章(前編) 九条館香筵のご報告 香道と現代科学の交差点

第二章(前編) 九条館香筵のご報告 香道と現代科学の交差点

第二章(前編) 九条館香筵のご報告
香道と現代科学の交差点

行動科学・栄養学・ウェルネス香道未来へ

 

2025531日、東京国立博物館・九条館にて「香道 蘭乃園 季節(とき)の記憶 香りの美の香筵(こうえん)」が催されました。
この香席は、伝統的な香道と現代のウェルネス思考(ウェルネス思考とは、「何を大切に生きたいか」「どんな環境を選ぶか」「自分をどう整えるか」といった、自己決定の感性と知性を育む思考)に加え、行動科学や脳の多様性といった学術的視点が響き合う、新たな試みの第一歩となりました。

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こうした時代の感性と知の交差を背景に、ウェルネス香道は、古の人々が自然や動物と共存しながら築いてきた暮らしの知恵を、現代社会に活かす取り組みを進めています。

 

当日ご参加いただいた方々は、歴史ある櫓・九条館にて、大倉基佑氏が所有する香木の背景について学び、平安時代の人々の美意識や、江戸期における「教育と香りの美」の精神哲学を体感されました。

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西日本香りと文化の会・香道香雅会の顧問である香道研究家・大倉基佑氏をはじめ、香扇会講師の美海星蘭(みうみ せいらん)氏、香りの文化に心を寄せる参加者、そして会社経営者・医療・福祉・教育関係者など、多彩な分野の方々が集い、香りを通じた豊かな交流が広がりました。

 

近年、吉武利文氏をはじめとする方々による『香道蘭乃園』における木花咲耶姫(このはなさくやひめ)や花山院に関する開解は、日本文化史および哲学的開解に根ざした深い洞察に基づくものであり、当ウエルネス香道の活動指針として、極めて重要な意義を有しております。
とりわけ、吉武氏が九条館や橘の歴史を背景に紡いだ語りは、香道の文化史に新たな光を投げかけるものであり、その深い洞察は会場の空気に静かな余韻を残しました。訪れたすべての方々の心に、そして大倉基佑氏の思いのうちにも、静かにして確かに染み入ったのでございます。

 


香りの力が言葉を携えて、人と人、文化と未来を結び直す…まさに「香道の今」を象徴する、かけがえのない時空がそこに立ち現れたような幻想的な気配は、まさに芸術の伎(わざ)そのものでございました。

 

香席の空間は、ひとつの芸術

 

九条館のしっとりとした空気の中、御簾の奥から差し込むやわらかな光静寂があたりを包み込むその場で、香筵(こうえん)は始まります。

 

その瞬間、場に集う者たちは自然と姿勢を正し、心を澄ませて、香りの一滴一滴を受け入れてゆくのです。 香席は、単なる儀式ではなく、共鳴と共感のひととき。 目に見えぬ対話が、空間を満たしてゆきます。

 

所作に宿る精神

 

大倉基佑氏をお迎えし、香木の由来や香を扱う所作の意味、香りを感じ受け止める心について語り合いました。

 

ある参加者の問いが印象に残っております。

 

「右手で香炉を伏せると、香水を扱う仕事柄、香りが手に残り気になります。左手で伏せてもよいでしょうか?」

 

大倉氏は静かに、しかし明快にお答えになりました。

 

「香道には調和という大切な精神がございます。香席は公の場であり、皆で香りを楽しむための秩序が求められます。個人の都合よりも場の流れを乱さぬ所作を大切にするのが本来の姿です。ただ、香元のご配慮があれば柔軟に対応可能でございます。」

 

このやり取りから、香道とは型に縛られるものではなく、「調和と敬意」で場を整える美の道であることが、あらためて感じられたのでございます。

 

香道の哲学調和の中の自由

 

香道とは、単なる形式ではなく、感じる美しさや奥ゆかしさを育む、精神の修養でございます。 ここでいう「秩序」とは、誰かを縛るためのものではなく、香席を共にするすべての方への敬意の表れ。そして「自由」とは、秩序から逃れることではなく、それを理解し、調和をもって自らを委ねることにほかなりません。

 

香道は今も「生きている学び」。 静かに、しかし深く、人の心と空間を育て続けているのです。

 

科学的視点から見た「香り」の感応性

 

香席の後、多くの参加者から「香りを嗅ぐだけで、背筋が伸びた」「呼吸が深くなり、いつの間にか目を閉じていた」「胃の重さがすっと抜けた」など、身体的な変化を感じたという声がありました。 これは嗅覚刺激が、自律神経系に直接働きかけることにより、リラクゼーション反応(副交感神経優位)をもたらすことと関係しています。特に、香道の場で感じる静寂・集中・安心といった要素は、ストレスホルモンの抑制や、消化器系への良い影響も科学的に報告されつつあります。

 

私たちは今、香道の持つ文化的・芸術的価値に加え、その生理的・心理的効用についても、あらためて光を当てる時代に来ているのかもしれません。

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予告:後編にて

 

後編では、行動科学と香道の対話:「迷信行動」の実験と所作の意味香道の教育的価値と「身体知」江戸期の纂所の精神と、「座右の銘に込められた智慧」環境カウンセラーの視点から見る調和の美学

 

といった視点から、香道が「現代科学と響き合う文化的実践」であることを紐解いてまいります。

 

掲載は今月下旬を予定しております。 どうぞ、香りの余韻とともに、お待ちいただけましたら幸いです。

 

今日は、皆さまのまわりでは、どのような香りが漂っているでしょうか。 代謝が整うと、身体から自然と滲み出る香りもまた、あなた自身の本来の香りとして豊かに立ち上がります。 香りを通じて、日々の心身と調和を育ててまいりましょう。 大切にお過ごし頂けましたら幸いでございます。

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敬具

カテゴリー:新着情報

投稿日:2025年06月19日