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第四章|琉球万国津梁の鐘 ― 海のかけ橋、香りのかけ橋

第四章|琉球万国津梁の鐘 ― 海のかけ橋、香りのかけ橋

🌊 1. 万国津梁の鐘に込められた願い

 

1458年、尚泰久王が首里城に鋳造させた「万国津梁の鐘」。そこに刻まれた銘文「琉球國者南海勝地而鍾三韓之秀以大明為輔車以日域為脣歯在此二中間湧出之蓬莱島也以舟楫為万国之津梁異産至宝充満十方刹」――「琉球国は南海の勝地にして、三韓の秀を鍾め、大明を輔車とし、日域を脣歯とし、この二中間に湧出する蓬莱島なり。舟楫をもって万国の津梁となし、異産至宝十方刹に充満す」という理念と、「以文教為先、以礼義為尚」(文教を先とし、礼義を尚ぶ)という哲学は、500年以上の時を超えて、今も私たちの心に語りかけています。

琉球は海のかけ橋。争いを選ばず、知恵を送り、礼と義をもって人とつながる。この精神は、現代の神経科学研究で注目されている「共感の神経回路」や「オキシトシンの分泌メカニズム」と深く共鳴します。人は本来、つながりを求める生き物であり、その本能に香りが果たす役割について、近年様々な研究が進められています。

石碑_2346

 

🌏 2. 琉球王国の外交と文化の力――香りがもたらす調和への期待

 

琉球王国は「万国津梁」――世界の架け橋として、貿易、芸術、文化交流によって栄えた海洋王国でした。中国、日本、朝鮮、東南アジア諸国との交易において、琉球の人々は争いを避け、互いの文化を尊重し、調和的な関係を築き上げました。

 

近年の研究では、特定の香り成分が脳の活動に影響を与え、リラックス効果をもたらすことが報告されています。サンダルウッドや沈香などの伝統的な香木に含まれる成分については、心理的な安定感に関する研究が進められており、これは琉球の人々が経験的に感じていた「香りによる和の創出」と興味深い関連性を示しています。

 

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(琉球丁子餅)

 

🕊️ 3. 面子を守り、逃げ道を残すという智恵――心理学的視点から

 

ある精神科医の言葉を思い出します。「是非を問うことはしない。追い詰めず、逃げ道を残す。面子が守られたとき、人はようやく考えを改める勇気を持てる。」

 

心理療法の分野では、このような考え方が重視されています。これは認知行動療法における「心理的安全性」の概念と一致します。リラックスできる環境では、建設的な対話が生まれやすいという研究報告があり、香りのある空間が対話の質に与える影響についても様々な調査が行われています。

 

対話とは、導くことではなく、相手が自分で立ち返る"間"を信じて待つこと。香道の「間」の美学は、まさにこの心理学的な洞察を体現しています。沈黙は空虚ではなく、深い洞察と理解が生まれる豊かな時間なのです。

 

 

🌺 4. 琉球舞踊松含流「かぎやで風」――蕾が開く瞬間の美

 

ドバイでの開催オープニングでは、琉球舞踊松含流による特別な舞踊が披露されました。琉球舞踊は、琉球王朝時代から受け継がれてきた格式高い舞で、2009年にユネスコ無形文化遺産にも登録されています。

 

松含流の大家が舞う「かぎやで風」は、単なる開いた花ではなく、今まさに開こうとしている蕾の美しさを表現した舞です。その瞬間の純粋さ、希望に満ちた可能性、そして生命力の躍動が、香道の精神と深く重なります。

 

「かぎやで風」の歌詞にある「かぎやで風や、肝ゆさよわり、うけたぼりが、またゆわりよわり」(かぎやで風よ、心が楽しく、御給仕申し上げたことがまた愉快である)という表現は、他者への奉仕と感謝の心を歌ったものです。これこそが万国津梁の精神そのものといえるでしょう。

ドバイオープニングかぎやで風img_2335

 

 

🍃 5. 今を生きる私たちへ――QOL向上への実践的アプローチ

 

だから今、風のように――ただ、そこにいる。争わず、礼義をもって人と人をつなぐこと。

 

現代のストレス社会において、慢性的なストレスは心身の健康に様々な影響を与えることが知られています。一方で、香りを介した深い呼吸と瞑想的な時間が、心身のリラクゼーションに与える効果について、多くの研究報告が蓄積されています。

 

ウェルネス香道の実践により期待される効果:

 

生理学的側面:呼吸の深化、リラクゼーション反応の促進に関する研究が進められています

心理学的側面:集中力やマインドフルネス効果について様々な報告があります

社会学的側面:共有体験が人間関係に与える影響について注目が集まっています

哲学的意義:現在への集中(マインドフルネス)、存在の受容、生命への敬意という価値観の重要性が再認識されています

 

八月心呼吸しようウエルネス香道_2347
 

 

✨ 6. 「香りで人と人をつなぐ」――科学と伝統の融合

 

嗅覚は五感の中で唯一、大脳辺縁系に直接作用する感覚です。記憶や感情を司る海馬・扁桃体との密接な関係により、香りが記憶や感情に与える影響について多くの研究が行われています。また、嗅覚情報の脳内での処理過程について、神経科学の発展とともに解明が進んでいます。

 

この科学的知見は、古来より香道が重視してきた「言葉を超えた心の交流」の意味を現代的な視点から理解する手がかりを提供します。香りが文化的背景や言語の違いを超えて、人間の感性に働きかける可能性について、今後更なる研究が期待されています。

 

「万国津梁の鐘」に込められた思いは、これからもウェルネス香道が歩む道を照らし続けます。伝統の智恵と現代の知見を融合させながら、現代人の心身の健康と豊かな人間関係の構築に貢献していくことを目指しています。

 

琉球の海風のように、香りは国境を越え、時代を超えて、人の心に平安と調和をもたらし続けています。それは、争いではなく理解を、孤立ではなくつながりを選ぶ、人類普遍の願いの具現化なのです。

 

蕾が花開く瞬間のように、一人ひとりの心に秘められた可能性が、香りとともに静かに、しかし確実に花開いていく――これこそが、ウェルネス香道が目指す真の癒しと成長の姿なのです。

 

沖縄の海と空、樹木img_2345

 

カテゴリー:新着情報

投稿日:2025年08月01日